2012年12月20日木曜日

新型出生前検査とは

1.      何が新しいの?



「新型出生前検査」とは、母体の血液中に存在する「DNA断片」の量を測定して、赤ちゃんの染色体の数の異常を調べる検査です。

母体の血液の中には、母親由来と胎児由来のDNAの断片が浮遊している、ということは以前から知られていましたが、これらを用いて染色体の数の異常を調べる出生前検査が日本で提供されるのは、これがはじめてになります。



2.      どんなことがわかるの?



今回提供が検討されている出生前検査でわかるのは、胎児の染色体の数の異常のうちでも、染色体21番トリソミー、18番トリソミー、13番トリソミーの三つの種類のものに限られます。

トリソミーとは、通常それぞれの番号につき2本ずつ存在する染色体が、3本ある状態のことです。

これらの状態は、全妊娠で3〜6%の割合で起こる先天性の異常の数%に過ぎません。















3.       誰が対象なの?


 この検査では、実際に胎児に染色体の数の異常があることを確実に知ることはできません。
 
(この検査の精度については、『「新型出生前検査」の精度について』をご参照下さい。)

そのため、現在日本産婦人科学会で作成が進められている指針案では、「本検査を行なう対象は客観的な理由を有する妊婦に限るべきである」としています。
 

客観的な理由として挙げられている条件は次の通りです。

・高齢妊娠の方(出産時に満35歳を迎えている方)

・胎児超音波検査で胎児に染色体の数の異常がある可能性が示唆された方

・胎児に染色体の数の異常が有る児を妊娠したことのある方

妊娠前期(12週まで)に受けた血清マーカー検査で、染色体の数の異常があること可能性を示唆された方

両親のいずれかに均衡型ロバートソン転座があって、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーとなる可能性が示唆される方



4.   検査を受ける前に考えておくべきことは?

日本産婦人科学会の指針案では、この検査を受ける前に、主に以下のことを妊婦やその家族に伝えることを定めています。(わかり易くするために文言は書き換えています)


・検査の対象となる三つの染色体の数の異常は、あり得る先天性の異常のうちの数割に過ぎないこと。

・先天性の異常は、産まれてくる子が持っている特性のひとつに過ぎず、子どもはその他にも多くの特性を持って産まれてくること。

・先天性の異常の有る無しやその程度は、本人および家族が幸か不幸かということとは、ほとんど関係がないこと。

・対象となる三つの染色体の数の異常を持つ子どもに対する医療や支援的なケアの現状。

・確定診断のためには羊水検査や絨毛検査が必要なこと。


けれども、ここには書かれてありませんが、妊婦は「確定診断の結果陽性だった場合、自分はどうしたいと思っているのか、それはなぜか、そしてその選択は実際 にはどのような影響を自分自身に与えるものなのか」を、検査を受けようとする前に考えておく必要があるのではないでしょうか。

私たちは、染色体の数の異常のある子を暖かく迎えることもできる、あるいは染色体の数に異常のある人たちが生き生きと生きることも可能な社会に住んでいます。

 染色体の数の異常を持って生きる人たち、彼らを迎える家族を通して、胎児と自分たちの持つはずの可能性を予め知っておくことが、困難な選択をする助けとなるのではないでしょうか。

関係する家族の会はこちらです。
21番トリソミー:日本ダウン症協会
18番トリソミー:18トリソミーの会 
13番トリソミー:13トリソミーの子どもを支援する親の会 
  

そして何よりも、出生前検査は「高齢妊娠」だからと言って「受けた方がいい検査」ではありません。ましてや「必ず受けなくてはいけない検査」では決してありません。
自分自身が胎児とどのように過ごしたいのか、そして胎児をどのように迎えたいのかということを、じっくり考える時間が持てると良いなと思います。



5. どこで利用できるの?

現在、国内ではこの検査を提供するための体制作りが進められている状況です。 
日本産婦人科学会の指針案では、今後、この検査を提供する施設には、次の要件を満たすことが望ましいとされています。


・検査の対象について、それらの染色体の異常を持つ子の状態の経過や、支援の体制をよく知っている、経験豊富な常勤の産婦人科医がいること。

・検査の対象について、それらの染色体の異常を持つ子の状態の経過や、支援の体制をよく知っている、経験豊富な常勤の小児科医がいること。

・認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職のいること。

・専門の外来があり、産婦人科医と小児科医(および認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職)が協力して診療をしていること。

・診療にあたる産科医と小児科医のどちらかが、臨床遺伝専門医の資格を持っていること。

・検査の前後に十分な時間をとって行なう遺伝カウンセリングの体制があること。

・検査後の妊婦の選択を支援し経過をみ続けることが可能な施設であること。

・出生後に必要となる医療やケアを提供することができる、またはそうした施設と密に連携していること。


したがって限られた病院でのみ提供されることになると言えます。


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現在、日本産科婦人科学会では、作成中の指針への意見を公募しています。→こちらです。

この指針へのご意見、ご感想を、是非メールでお聞かせ下さい。
 

(文責:渡部麻衣子)